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精神科の薬の副作用と依存性について

日々診療する中で、薬物療法についての親御さんの2大心配事項は、副作用と依存性ではないかと感じています。

まずは副作用についてお話しします。

薬によって出現しやすい副作用は異なります。例えば、ADHDに使うコンサータという薬は食欲低下や入眠困難が出現する頻度が高いですが、インチュニブという薬では眠気や血圧低下の頻度が高い、というようなことです。頻度が低くても様々な副作用が出る可能性はあります(それは精神科の薬に限ったことではありません)。副作用は薬の飲み始めに起きることが多いので、薬を始めてから出現した問題については、副作用を疑います。

また、副作用が出るかどうかは人によります。コンサータでは副作用が出てもインチュニブでは副作用が出ない人もいますし、コンサータは大丈夫でインチュニブでは副作用が出る人もいます。もちろん、両方とも出る人、両方とも出ない人もいます。
 基本的には、副作用が生じた場合にはその薬は中止します。副作用が強く出ているのに薬を続ける、ということはありません。副作用が出ても、薬をやめれば1日~数日で副作用はおさまります。そして、通常は一つの疾患に対し複数の治療薬がありますので、改めて、違う薬を試すかどうか相談します。

薬を使う以上、一般的な薬の副作用(肝機能障害や腎機能障害等々)が起きるリスクはゼロではありません。しかし、精神科の薬だからといって特別に心配する必要はないと私は思っています。

 

次は依存性について考えたいと思います。
 

「その薬は、依存性はありませんか?」と、親御さんからよく聞かれます。よくよく聞いてみると、親御さんの心配している「依存」は、医学的な「依存」とは異なるようです。

 

まず、医学的な「依存(処方薬の依存に限定しますが)」について説明します。ある種の薬は、使い続けていると、徐々に効果を感じにくくなったり、効果が切れた時に離脱症状が強く出たりすることがあります。こうなると、薬をやめようと思ってもやめることができず、このような状態を「依存」といいます。また処方された薬を、用法用量を守らずに使うことを「乱用」と言いますが、「乱用」を繰り返しているうちに「依存」状態になり、更に「乱用」が繰り返される悪循環に至ることがあります。
 精神科で処方する薬の中で依存を起こす可能性がある薬としては、抗不安薬、睡眠薬が主ですが、ADHDの治療に使う、コンサータとビバンセという薬も依存が起きる可能性はあります。コンサータとビバンセは、「乱用」せずに用法用量をきちんと守って使用すれば、依存が問題となることはほぼありません。また、抗不安薬・睡眠薬は種類によっては通常の用法用量でも「依存」状態になることがありますが、色々なタイプの抗不安薬・睡眠薬があり、子どもには依存性のない薬をまずは使うことになっています。

 

ただ、親御さんの心配はそこではないように感じています。親御さんの表現する「依存」に関する心配とは、①(適正な用法用量で薬を使っているのが前提で)「薬が必要な状態」が続き、いつまでも薬を使わないといけないのではないか②子どもが薬に頼ってしまって、薬がないとだめだと思い込んだり薬がないことで不安になったりしないか、というようなことではないでしょうか。

 

①について、「薬が必要な状態」が続くなら薬を使うしかないだろう、と医療者としては思うのですが、親の立場では、そう簡単には割り切れないものです。疾患によって「薬が必要な状態」の続く期間の目安は異なります。それをはっきりとわかりやすく提示できればよいのですが、子どもの場合、症状の改善には養育環境や学校の環境がかなり影響を及ぼしますので、自信を持ってお伝え出来ないのが現状です。それでも、一番順調に改善した場合の経過をわかりやすく伝えることができれば、薬に対する親御さんの不安の解消には役立つはずですので、わかりやすい伝え方について現在思案しています。ただ、適切な用法用量で使う限り、薬を飲む前の状態にも戻るかもしれないことをわかっておいていただければ、薬はほぼいつでもやめられます。薬の種類や量によっては、中止する際に徐々に減らす必要がありますが、その場合でも段階的に減らして中止にするのにはそれほど時間はかかりません。薬を使うかどうか悩んでいる今の状態になることを恐れて薬を使わない、というのはとんちみたいな話ですので、今困っているのであればひとまず始めてみることをお勧めします。

 

②について、用量・用法を守って使っていることが前提であれば、これは依存というより暗示的な問題かと思います。要するに単なる思い込みなので、思い込みを解消してあげればよいだけです。実際には、そのように思い込んでしまうお子さんにはほとんど会ったことはありません。

 

薬の使用に抵抗を感じるのならば、自分はどうして薬に拒否感があるのだろう?と考えてみてください。花粉症の薬なら?風邪薬なら?喘息の薬なら?血圧の薬なら?抵抗はないのでしょうか。自分が、どのようなことを不安に感じているのかがある程度はっきりすると、漠然とした不安感を抱えている時よりも、不安は小さくなります。

 そうはいっても100%安全な薬はありませんので、不安をゼロにすることを目指さないでください。メリット(薬の期待される効果)とデメリット(副作用、依存性?、面倒くささなど)を比較して、検討していただければと思います。

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