良きボスであれ
やっていることをやめさせたい時ポイントは二つあります。
① 子どもが一番やめやすいタイミングをつかむ
② チャンスは一回
① 子どもが一番やめやすいタイミングをつかむ
物事にはやめやすいタイミングがあります。何かを思いついてやり始めた時や調子よくやっている最中に妨げられたら、誰だって不満が残ります。欲求のコントロールが未熟な子どもであればなおさらです。ですので、やめさせるのに最適なタイミングは、子どもの楽しみのピークを越えた後~ちょうど終わるころです。「終わるころ」と聞くと、「結局最後まで待たなくてはならないの?そんなに待っていられない!」と思うかもしれませんが、そうではありません。例えば、お絵描きをしている子どもを想像してみましょう。最初は「ママを描いてあげる!」と言ってお母さんの絵を描き始めました。お母さんを書き終わると、次は隣にくまさんの絵を描きます。少し絵を眺めて、色をつけたいなと思った子どもは色鉛筆を持ち出して色を塗り始めます。書き終わって周りを見渡すと、アンパンマンの絵本に目が留まり、アンパンマンのキャラクターを描いてみようと考えます。子どもをしっかり観察していれば、やめさせるタイミングはたくさんあります。母親の絵を描き終わった時、くまさんの絵を描き終わった時、母親の絵に色を塗り終わった時、くまさんの絵に色を塗り終わった時、などです。大切なことは、突然やめさせるのではなく、辞めさせたいタイミングの少し前から介入し始めることです。「そのお目目はかわいいねえ」「お母さんは髪の毛長いんだね」「くまさんは手をつないでいるんだね」など話しかけ、子どもとやり取りをしている雰囲気を作り上げます。そろそろ終わりそうだな、と感じたら、「もうすぐ完成するね」「最後にリボンをつけてみたらどうかな?」などの言葉で、子どもが「そろそろ終わりなんだな」と感じられるようにします。そして、子どもが完全に終わりにするより少し前に、「じゃあこれが描き終わったら色鉛筆をあそこにしまって終わりにしよう」「絵を描き終わったからお昼ご飯を食べに行こう」などと、「これで終わり」という宣言をしましょう。 ここで子どもがやめることができたら、「ええええ!ちゃんと終わりにできるなんて、すごすぎる!お姉さんだねえ!」などと大げさなくらいで褒めてください。終わらせるコツとしては、まだ子どもが明確に終わりにしようとしていなくても、フライング気味で褒めてしまうことです。終わらせる少し前から子どもに働きかけるのは、大人主導の流れをつくるためです。こどもの行動の実況中継をしつつ、たまには提案をして子どもを大人のペースに引き入れていくのです。イメージとしては、実際は子どものペースに合わせているのだけど、ほんの少しだけ予想して親がその1㎝でも先に行くことで、親がリードしているように子どもに錯覚させることです。ただ、これは、子どもをしっかり観察していることが必要になります。例えば、保育園にお迎えに行って、まだ遊んでいる子どもに「もう帰るよ」と言いながらも、他のお母さんとおしゃべりし始め、話のきりがついたところで、まだ遊んでいる子どもを見て「もう帰るって言ってるでしょう!」と大声で呼ぶようではいけません。さらには、子どもが来ないのでまた母親同士のおしゃべりが始まって…となってしまったら、子どものタイミングをつかむどころではありません。そして、「②チャンスは一回」でお話ししますが、母親の「帰るよ」は子どもにとって従わなくてもかまわないもの、になってしまいます。
② チャンスは一回
親が子どもに「終わりだよ」「帰るよ」という言葉を言ったならば、必ずそれを実行してください。子どもがぐずっても泣いても怒っても、最後まで成し遂げなくてはいけません。先ほどの保育園の例では、母親の「帰るよ」という言葉は効力を失ってしまっていることがわかるでしょう。子どもは、大人が本気で言っているのか、その言葉にどのくらいの覚悟があるのかを、今までの経験や観察から判断します。ですので、大人は子どもにこういった類の声掛けをする時には、いくら泣かれも暴れられても、絶対に実行するという覚悟をもって臨まなくてはいけません。そして実際に子どもは泣いて暴れて自分の思いを通そうとしますが、その際に①をしっかりと抑えておくと、子どもの欲求不満も大人側の精神的身体的労力も最小限で済ませることができるでしょう。不思議なことに、子どもは①②をきちんと押さえている大人の指示には従いやすくなっていきます。それは、その人が厳しいからとか、叱られるのが嫌でその人の前では猫をかぶっているとか、そういうことではありません。子どもだって駄々をこねたくてこねているわけではないので、自分の欲求不満をうまくコントロールしてくれて褒めてくれる大人を信頼するようになるのです。そして、この人の指示に従うことは自分にとってメリットがある、と無意識下に感じるため、相手によって指示を聞けたり聞けなかったりの差が生じるのです。大人は子どもをリードする存在です。上手にリードして、子どもが自分の欲求をうまくコントロールする力を育てていきましょう。
不登校
不登校について、当院(私しかいませんが)の考えを少しお話しします。不登校の患者さんをたくさん診察していますが、必ずしも「学校に行けるようになること」が目標ではありません。学校は同じ年齢の子が一か所に集まり同じことを学び同じように行動することを求められる場所です。多くの子どもは特に疑問も抱かず、特に苦痛も感じず(勉強は嫌ですが)、毎日せっせと学校に通い、それなりに学び、それなりに身に着け(身につけなくても)、中学校を卒業していきます。(ここでは、これを「学校生活スタイル」とでも呼ぶこととします)ただ、どうしても「学校生活スタイル」があわない子どもが一定数はいるのです。週に5日間登校する、というペースが合わない子どももいます。そして、そのような子ども達の中でも、その子にあった学び方・集団とのかかわり方というのはそれぞれ異なります。不登校の診療において私達にできることは、その子がストレスをあまり感じないで、かつ充実して過ごせる「子ども時代の過ごし方・学び方」を探すお手伝いをする、ということかなと思っています。 もちろん、本来は「学校生活スタイル」があっている子でも、人間関係のきまずさや、何らかの病気(例えばうつ病)が原因で不登校になってしまう子もいます。その場合は、たとえば、クラス替えで人間関係がリセットされるまで待つとか、その病気に対する治療をするとかで、もともとの生活に戻っていくことになります。 ですので、不登校のお子さんを分類すると、以下の3パターンになるかと思います。
① 人間関係(いじめを含む)など「そりゃ、行きたくないよね。」「今のクラスだったら行けないのは無理もないよ」という場合→その問題が解決するまでは行かなくてよい。学校の先生に働きかけ、いじめはもちろん徹底的に対応してもらい、人間関係のこじれについてはクラス替えなどで対応してもらう。
② うつ病、不安症、強迫症(潔癖症や確認)などが原因で登校できない場合→治療
③ そもそも学校生活スタイルが合わない(神経発達症いわゆる発達障害のある子に多い)場合→その子にあった環境を考える(別室登校、特別支援級、適応指導教室、フリースクール、自宅で学習など)
①~③のすべてが重なっている場合もありますし、①だったのが②になるなど、時間の経過で変化することももちろんあります。①については、病院でできることはありません。②については、病院にきていただきたいです。③については必ずしも病院にこなくてもよいのですが、病院がお手伝いできることはまあまああるのではないかと思います。①から③の何が原因かわからない場合は、病院を受診することで、原因をある程度特定し今後の対応を一緒に考えていくことができますので、受診していただければと思います。
登校しぶりで、段階的に学校への滞在時間を増やしていく時のポイントについて親御さんから質問があったのでまとめました。
① 見通しを持たせる
② 段階的に
③ 本人も交えて相談
④ 大人は焦らない
⑤ 「自分が状況をコントロールできる」という感覚を持たせる
① 見通しを持たせる
先のことがわからない時には誰しも不安になります。病院でちょっとした施術を受ける状況を想像してみてください。麻酔をするのか、麻酔はどれくらい痛いのか、施術にはどのくらい時間がかかるのか、施術を受けた後はどんな状態になるのか、などのことが全く分からなかったとしたら、不安になるのは当たり前です。この先に何が起きるのかを伝えることは、不安を小さくするのに非常に有効です。その日のスケジュールや1週間分のスケジュールをわかりやすく示し、子どもが想像しやすいように工夫しましょう。
② 段階的に
当たり前ですが、何かを行うのに、10分行うのと5時間行うのでは、取り組みやすさが違います。また、10分行えると、それが次の取り組みの自信につながります。しばらくは同じ段階を繰り返し、慣れた頃に次のステップに進み、それを繰り返していくと、不安を最小限にすることができます。
③ 本人も交えて相談
このような作業は、親と先生だけで進めるのではなく、なるべく子どもも参加させてください。親や先生が考える子どもの思いと、子どもの実際の思いは異なるかもしれません。⑤にも関連しますが、子どもに話し合いに参加してもらい、子どもの意見を反映させることは、「自分が状況をコントロールできる」という感覚にもつながります。
④ 大人は焦らない
段階的に進めていく際に、子どものペースを無視して、焦って進めないようにしましょう。子どもが不安を感じているのにステップアップを急ぐと、不安が強まり逆に後退してしまいます。子どもの不安が十分に小さくなってから次の段階に進むようにしましょう。状況が許すのならば、子どもから次の段階に進みたいと提案があるまで、大人はのんびり待つくらいの気持ちでいるのが理想です。
⑤ 「自分が状況をコントロールできる」という感覚を持たせる
ここでまた、病院で施術を受ける状況を想像してください。多くの人は、お医者さんに「痛かったり苦しかったりしたら中断しますので教えてくださいね」と言われると安心するのではないでしょうか。これが「自分が状況をコントロールできる」という感覚です。一度頑張ろうと決めたことだから最後までやり遂げないといけない状況と、決めたことでもつらくなったら自分の意思で保健室に休憩に行ける状況では、子どもが不安を感じにくいのは後者です。そのように伝えると、子どもが甘えてしまって頑張れないのではないかと心配する親御さんも時々いらっしゃいますが、このような状況でまず対処するべきは「不安」です。不安が小さくなった後に、頑張る機会はいくらでもありますので、まずは子どもの不安を小さくしてあげる工夫に集中しましょう。