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強迫症の対応

強迫症の治療は、心理療法(暴露反応妨害法)と薬物療法です。心理療法は心理士が行いますが、暴露反応妨害法ができる心理士がいなかったり、当院のようにそもそも心理士がいなかったりする場合には薬物療法のみの治療になります。薬物療法で症状はかなり改善することが多いのですが、改善までの間、家庭では子どもにどのように対応したらよいでしょうか?診察では、詳しく説明する時間がなかなかとれませんので、「暴露反応妨害法の考え方に基づく、家庭でできる子どもへの対応」を考えてみました。

まずは言葉の説明です。専門用語は以下の2つだけ覚えてください。
強迫観念:自分の意思とは関係なく繰り返し頭に浮かんでくる考えやイメージ
「手が汚れてしまったかもしれない」「誰かを傷つけてしまったかもしれない」のような考え
強迫行為:強迫観念によって生じる不安や恐怖を打ち消すために行う行動
「手が汚れてしまったかもしれない」→手を洗う
「誰かを傷つけてしまったかもしれない」→「大丈夫?」と相手に確認する

「手が汚れてしまったかもしれない」「誰かを傷つけてしまったかもしれない」などの強迫観念が浮かんだ時に、「手を洗う」「大丈夫?と相手に確認する」などの強迫行為を行わずにいると不安が強まっていきます。そして、不安や恐怖に耐えられず、強迫行為を行ってしまうと、一時的には不安は小さくなりますが、少しするとまた強迫観念が浮かんできます。そのため、強迫行為を再び行ってしまい、悪循環に陥ります。しかし、実は、強迫観念による不安は、強迫行為を行わずに我慢していると小さくなっていくことがわかっています(図1)。また、このように、「不安でも我慢する」ということを繰り返すと、大きな不安が生じなくなっていきます(図2)。治療者(保護者)は、まずはこのことをしっかりと理解しましょう。これを図にすると以下のようになります。

​図1

​図2

子どもにこのことを教えてあげましょう。小さな子には「心配な気持ちがでてきても、少しだけ我慢してみよう。少しだけ我慢すると、心配な気持ちはだんだん小さくなっていくからね」とわかりやすく教えましょう。我慢するのが難しそうであれば、最初は短い時間から我慢させてみましょう。大切なのは「我慢すると、時間が経つにつれ心配な気持ちは小さくなっていく」ということを子どもが実感することです。ただ単に、気を紛らわせるのではなく、この治療原理を強調しましょう。これを繰り返し行うことによって強迫症は改善していきます。

そうはいっても、「心配な気持ちが出てきても我慢する」のは、強迫症の患者さんにとっては簡単なことではありません(そういう病気なので当然ではありますが…)。治療を成功させるカギの一つは、治療者(保護者)との信頼関係にあります。頼りになる人・自信に満ちた人から「大丈夫だよ」と言われれば、不安があってもその言葉を信じてやってみようと思えますが、頼りにならない人・自信がなさそうな人から同じことを言われても、本当に大丈夫かな、と疑ってしまうでしょう。ですので、治療者(保護者)は、子どもが安心できるような穏やかな態度で、自信を持って(いるふりでもよいので)対応しましょう。
 治療者(保護者)側の態度でもう一つ大切なことは、深刻になり過ぎないことです。強迫症は、非常に苦しくエネルギーを消耗する疾患です。また、家族が症状に巻き込まれやすく、家族関係が悪化することもあります。家族関係の悪化は、症状の改善を妨げます。症状の極端さや異常さを面白く思えるくらいの余裕を持ち、気楽な雰囲気を作るようにしましょう。

次に実際に子どもに対応する際のコツをいくつかお教えします。

①    治療原理を理解させる

  • 先に説明しましたが、我慢させることが治療ではありません。我慢をすると不安が小さくなる、ということを実感させることがポイントです。ですので、子どもの理解力にあわせてわかりやすく説明してあげましょう。

②    一番我慢しやすいものを我慢のターゲットにする

  • 強迫症の患者さんにとって、強迫行為を我慢することは本当に苦しいことです。一度にたくさんの行動を我慢することは不可能です。強迫行動をリストアップし、もしその行動を我慢するとしたらどのくらいの不安や恐怖があるのかをランク付けしてみましょう。その中で、一番不安が小さいものを選んで、ターゲットにしてみましょう。

③    「○○は一回。その後は我慢だよ」などの決まった言い回しを使う

  • 本人が我慢しようと決心しても、やはり不安になって繰り返して行おうとしたり、「大丈夫かな?」と何度も確認を求めてきたりと、治療者(保護者)は対応に困ってしまうことが必ずあるでしょう。そのような時には、「○○は一回で、その後は不安になっても我慢だよ」のような言葉を返しましょう。この時に、決まった言い回しをすると、患者さんも受け止めやすいですし、治療者(保護者)側も、要するエネルギーが少なくてすみます。また、人によってしっくりくる言葉が異なりますので、どのような言葉がけだとしっくりくるのか、話し合うこともよいでしょう。

補足:今回お話しした子どもへの対応は、「暴露反応妨害法の考えに基づく、家庭でできる子どもへの対応」であり、暴露反応妨害法そのものではありません。
 暴露反応妨害法とは、「手が汚れてしまったかも」「鍵をかけ忘れてしまったかも」のような強迫観念を起こすような状況を治療場面でわざわざ作り(暴露)、「手を洗う」「鍵がかかっているか確認する」のような強迫行為を行うことを我慢する(反応妨害)ということを治療者(心理士)と一緒に繰り返す治療です。家庭では、強迫観念を起こすような状況をわざわざ作る必要はありません。そもそも、生活は暴露にあふれているからです。

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